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「……尊敬できる人……でした」
長い沈黙の後、喉からようやく答えを搾り出した。
彼は極めて優れた人物だった。彼のことは心の底から尊敬し、心酔さえしていた。あの先もずっと、生きている限り彼の元で働くつもりだった。
ちょうど二年前までは。
彼が、真実の姿を明らかにする前までは。
彼が──夜神月が、デスノートの切れ端を取り出す前までは。
「夜神月は、あなたに対して好意を抱いていたと思いますか?」
「今となってはわかりません。でも、同僚としての好意は普通にあったんじゃないかと……」
「もし、夜神月が『自分は《キラ》だ』とあなただけに打ち明けたとします。さて、あなたは彼を逮捕しますか?」
「……します」
「間がありましたね」
意地悪なニアの言葉に、反射的に僕は一歩踏み出そうとしていた。だが、こっちを見つめ続けるその視線に、冷水を浴びせられたような気分になって己を取り戻す。
「──申し訳ありません」まったく、いつになっても僕は……。
「いいえ、今のあなたの行動も、予想される範囲内です。失礼なことを言ったのは私ですから、謝る必要はありません」
表情一つ変えずにすましているニア。こちら怒らせて、何か意味でもあるというのか?だんだん馬鹿らしくなり、僕は抑えていたものを吐き出すことにした。
「正直に言うと、夜神次長が亡くなられる前なら──いや、《L》が死ぬよりもっと前、例えば月くんがデスノートを手に入れた直後にでも。《キラ》と新世界を作ろうと言われたら……あの月くんに一対一で説得されたら、百パーセント『No』と言えていたか……情けないことですが、確信はできませんね」
「非常に素直な答えをありがとうございます、松田さん」ニアの微笑に、無性に腹が立った。
「さあ、もういいでしょう、ニア。偽ノートを燃やすならどうぞ。僕はそろそろ失礼させてもらいます」
「いえ、最後にまだ一つ残っています。質問というより、実験ですが」
ニアは、自分の左手を掲げて見せた。手の甲をこちらに向けて。
「今から、私の言うとおりに」
苛つきが頂点に達していた僕は、ぶすっとした顔でニアの指示に従った。何が「簡単な質問」だ。おまけにこんなことまでさせて、これではまるで──まあいい、さっさと終わらせて帰ろう。
それから数秒も経たないうちに、僕の「すぐ帰りたい」という思考はどこかへ吹っ飛んだ。
「あ……ああ………!!!!」
膝だけでなく、全身が止めようもなく震えた。足が二、三歩よろよろと動き、そのままがくりと僕は床にへたりこむ。
「──やはり」
ニアが目を見開き、小さい声でつぶやいた。
スライドした僕の腕時計の底板には。
小さな紙片が、留められていた。
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