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それから、いつまで突堤のところで立ち尽くしていたのかはわからない。

あまりにも色々なことがありすぎた。スーツを容赦なく貫いて襲ってくる海風の冷たさに、くしゃみをして我に返る。

そういえば、今、何時だっけと腕時計を見て、憂鬱な事実をまた一つ思い出す。

そうだ、この時計って月くんに細工された……だからといって……。

「いきなり海に投げ捨てる、っていうのも……マンガみたいだなぁ」

自分で自分にツッコミながら、僕は自分の車に戻る。

普段使いにするのは止めても、たぶん、この腕時計はずっと取っておくだろうという気がした。形見……なんだし。

点々と続く街灯の下を、車は走る。

さっきの僕のたわごとは、何かを本当に当てていたのかもしれないが、もういい。証拠は全て灰だ。ニアが本当にああしていたとしても──。

──「あそこでニアが負けていたら、俺達は今生きていない。そういうことだ」

一年前の伊出さんの結論に、僕は「そうっすね」と答えるしかなかったんだから。

今、生きているという事実。それのみが《キラ》事件を通して残ったものだった。

ああ、あとこの時計もか。ニアが言った、《キラ》事件の”全ての終わり”は今日から始まり、結局、僕達が生きている間続くんじゃないだろうか。

ポケットの中で、携帯が振動とメロディーを撒き散らし始めた。

路肩に車を寄せ、ディスプレイを見る。「山本・緊急」。後輩からだ。

「もしもし……」

「あっ、松田さん!どうしたんすか!」

「どうしたって……こっちはどうもしないけど、まさか何かあったのか!?」

「もう、『何かあったのか〜?』じゃないっすよ!」

いきなりのボリュームアップに、少々携帯を耳から遠ざける。あきらかに酔っぱらっているような山本の声。

「今日、例の合コンだって前々から言ってたじゃないすか!いきなりすっぽかすなんて……なんか、僕が席を離れていた時に突然『今日、お先に』って帰っちゃったんですって?松田先輩が合コンを忘れてまでどっか行っちゃうって、一体何があったんすか!」

「………」

「松田先輩があれだけ誘え誘えっていうから、こっちも無理して向こうの女の子、一人増やしてもらったんですよ!」

「……ごめん」とりあえず、謝った。

「ま、おかげで、こっちはウハウハっすけど!ふっふっふ……あれ、松田先輩?せんぱーい?あ、ごめんねリナちゃん。うん、ちょっと例の先輩に電話してただけー。もう切るから。先輩、お詫びに今度何かおごってくださいねー。それじゃ失礼しまっす」

唐突に通話は切られた。

合コンか……そんなものもあったな……って、合コンを忘れるくらいの事態だったんだな、今日は。と、妙なところで再認識している自分がある種おかしくもあった。

さきほどのシリアスな展開が、嘘のようだった。

どんなにがんばっても、僕は元の地点に引き戻される。そういう運命なのかもしれない。死神が飛び交う最前線から、日常へ。

「──帰る、か……」

誰に言うともなくつぶやいて、アクセルを再び踏み込んだ。

明日という方向を目指して。

カウントダウン
-The last piece-
The End.

→おまけエピ「帰還」
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