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《W》 chose is... 2/3
「無論、そちらの事情もわかってはいますけどね。しかし、一人の人間に《L》を務めさせること自体が間違っているとは思いませんか?生物が個体数を増やすのは、全滅のリスクを少しでも少なくするためです。本来ならば、《ハウス》内外を問わず優秀な人材を揃え、チームとして《L》を成り立たせたかったのですが……。例えば今回の場合も、《キラ》対策のためにアメリカあたりで独立した機関をきちんと組むべきだ、と大統領に提言したのですけどね……」

カップの底に溜まった砂糖を、スプーンで掬い取って舐める《L》。

レイ・ペンパーら十二人のFBI捜査官の死、南空ナオミの失踪。

アメリカは既に恐れをなし、他の国もまた同様だった。もっと事態が急転すればまた違うのかもしれないが……例えば、それは。

「私が──《L》が死んだ時、なんでしょうねえ……」

スプーンの柄を指でつまんでぶらぶらさせながら、《L》は自嘲した。

結局のところ、同じなのだ。

《キラ》の「裁き」を讃える民衆も、《L》なら何とかしてくれるかもしれないと《キラ》捜査を頼み込む各国の上層部も。対象は違えど、過度に何かを盲信しているという点は。

「そういえば、ワタリ。マットはあれからどうしていますか?」

「ああ、あのゴーグルをかけた……《読む》能力の子ですね。相変わらず一人で暮らしているそうです。まだ一度も《ハウス》へは戻っていないとか」

かつて、《L》候補の三人目として注目されていたあの少年。

養成プログラムをはずされてからしばらくして、外での生活を始めた、と聞いていたが──《L》はたった一度だけマットと会った時のことを思い出す。

全てを《読む》残酷な能力。ゴーグルの奥からは、どことなく悲しそうに伏せられた目が覗いていた。

《ハウス》の他の子供達もマットへは距離を置いて接していたらしく、交友関係のレポートにはメロの名だけが記されていた。

「しかし、どうしたのですか急に?」

アールグレイのお代わりを注ぎ、問いかけるワタリ。

「いえ、思っただけです。全てが《読める》能力が私にあれば、今の月君の件も何か手がかりが得られるのではないか、と」

「まだ《ハウス》の管理下にある子を捜査のために使うのは──」

「ええ、わかってはいます。規則がありますからね。第一、マットの《能力》は、モニター越しではどうしても精度が落ちてしまう。直に相手と会わなければ最大限に能力が発揮できない上に、その相手は”顔と名前を知っただけで、手を触れることなく相手を殺せる”という《能力》の持ち主かもしれない……あまりにも、不利な賭けです」

紅茶にまた地獄のような量の角砂糖を投入し終わると、《L》は話を続けた。

「まあそれは別にしても、私はマットのこれからに注目しているのですよ。今まで《L》候補から外れた子は何人もいましたけれど、その後は普通に十八歳まで《ハウス》に留まるのが通例ですからね。いきなり外の世界に飛び出していくとは、この私でさえ予想だにしていませんでした」

しかも、マットは《ハウス》と契約を結ぶことで、自活するための資金をきっちり調達していったという。

思わぬしたたかさに、それを知った時には思わず口元が緩んだものだ。

「確かに、あれは異例でしたな。当時彼の処遇について、上層部ではかなり論議していたものですが──何故ですか?《L》。最後にあなた自ら許可を出したのは」

「可能性、ですよ」

「可能性?」

「あの子たちには《L》に囚われず、自分の道を探していってほしい。私はずっとそう思っていますが、なかなか難しいものがありました。特に、《ハウス》内でNo.3より上ともなると。しかし、マットはそれを着実に実現しつつあるように思えるのです」

もっとも──と、《L》は思う。

ニアにはない行動力。メロにはない堅実さ。

バランス感覚、という観点ではマットが一番優れている。

正直なところ、マットのような人物を将来自分のチームに入れてみたい、という気持ちもあった。だが、そういった欲望を振り切って──マットの希望が全て叶うよう、あの時《L》は裏でロジャーに指示を出した。

空へ羽ばたこうとしている鳥を、いつまでも閉じ込めておくべきではない。

いつかは鳥も古巣へ戻ることがあるのかもしれないが、それはまた別の話だ。

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