←前ページ
Observer's name:3章 1/2
3.The Detective disqualification is 《Matt》

2002,Winchester

「残念だが、君は《L》の養成プログラムからは外れることになった」

記念すべきバースデイに、《ハウス》の副責任者ロジャーから告げられた言葉。

十二本の小さな蝋燭の火を吹き消すことも忘れ、俺はロジャーの顔を見つめ直す──残念/苦渋の決断/諦め──そして、隠し切れない失望。それらの合間からわずかにまたたいていた《標識》を、俺は一生忘れないだろう。

《期待はずれだった──》

「だからといって、君そのものの価値が否定されるわけではない。知っているとおり、君が実験に協力してくれたおかげで、新しい顔面認識のシステム開発が極めて迅速に進んだ。あのロイヤリティの一部は、もちろん君に還元される。《ハウス》名義の口座に振り込まれて、君が十八歳になるまではこちらが管理することになるがね」

ケーキの上に、ロウが次々と滴り落ちる。

「《ハウス》の研究部門には、他にも君と仕事をしたがっているチームが幾つかある。そこに通いながら、大学へ編入してはどうかね?君は良い研究者になれるはずだ、何しろ、既に良い観察者なのだからね」

《この──》

「とにかく、今後も《ハウス》は君に変わらない支援を続ける、ということだ。さあ、安心してケーキを食べたまえ」

《出来損ないめ!》

蝋燭はみるみるうちに己を溶かし、そのまま崩れ落ちた。俺のちっぽけな自尊心と一緒に。

ロジャーはこれ以上耐えられなくなったのか、そのまま食堂を出ていった。当たり前だ。誰でも、自分の思考全てを無防備に晒し続けることなどできない。特に、今回のような場合は。

真っ暗な食堂で、俺は呆然として座っていた──《L》になれないなんて、とっくにわかりきっていたことだったのに。

「おい」

不意にかけられた声に、反射的にびくっとしてその方角を向く。いつの間にかドアは開かれ、そばの壁に奴が気だるそうによりかかっていた。肩より少し上のところで綺麗に切り揃えられた髪が揺れる。

「……メロ?」

声が震えそうになるのを必死に抑えて、その名前を呼ぶ。それ以外に、何と言えばいいのかわからなかった。きっと向こうもそうなのだろう、こちらを見ているようだったが──暗くてその表情はわからなかった。《標識》も。

「……今の、ロジャーの、話、聞いてたのか?」

かろうじて、喉の奥から数個の音節を搾り出すことに成功した。俺が《L》になれっこないことなんて、とうにこいつも勘づいていたはずだ。さっきの話を立ち聞きされていたとしても、別に構わない気分だった。

メロは、まっすぐこっちに歩み寄ると──ああもういい、お前のほうが一月と十八日ほど年が上だからって、大人ぶって慰められたい気分じゃない。

「待て、この馬鹿野郎!」メロが、驚くほど強い力で俺の肩を掴んだ。だからもういい、そっとしておいてくれ。俺は先ほどのロジャー同様、黙ってこの場を逃走──「だから、待てっつってるだろ!」──ん?

闇にだいぶ目が慣れてきたのと、薄い月明かりが射してきたおかげでメロの顔が少しはっきり見える。慰めでもない。同情でもない。そこに浮かぶ《標識》は、いつものものとまったく変わらない──言語までには至らない、純粋な怒り。

「お前なあっ!」

"《L》を諦めるな?""お前ならできる?"──違うな。これはもっと本能に根ざした感情。つまり。

→次ページ
小説目次
トップ