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Observer's name:4章 4/7
2004年12月24日──世間ではクリスマス・イブ。ここ、ロンドン郊外のこのマンションの周りにも、赤と緑のクリスマス・オーナメントを可愛らしく飾り付けた家が目立つ。
だが、俺の心はいっこうにめでたくもならない。
メロが姿を消して19日目。足取りはまったく掴めなかった。
《ハウス》側も同様らしく、毎日のように問い合わせの電話がかかってくる。わずらわしいことこの上ない。
《ハウス》に戻って《キラ》捜査班に加わるのを拒否した分だけ、余計にプレッシャーがかけられている気がする。
だけど、ニアに協力するよりも、メロを探すことのほうが重要だった。
あの時《ハウス》を出てしまったのは、本当に正しかったのだろうか?
あのまま残っていれば、今回のメロ失踪を防げたのかもしれない。結局ずるずると生活するまま、あれから更なる"答え"も見つかっていないというのに。
中途半端な自分探しをするより、メロの側にいたほうがずっと良かったんじゃないか?
いや、後悔はやめよう。時間を巻き戻すことはできない。
俺はモニターを全て切って、気分転換のために散歩に出ることにした。
外はどんよりとした曇り空で、身を切るような寒さに満ちていた。今の俺の加熱した頭には、まあこれくらいでちょうどいい。
コートのポケットに手を突っ込んで、街の裏路地を思うがままにうろつく。気がつくと、いつもの場所に来ていた。
様々な電子音が漏れる、小さなゲームセンター。
俺の数少ない、熱中できる趣味の一つがビデオ・ゲームで、特に迫力あるアーケード・ゲームはいつプレイしても惹かれるものがあった。
これも《能力》の恩恵なのか、どんなに早い動きも俺の目は捉えた。あとは、反射的にそれに合わせて指を動かすことさえ練習すれば、簡単にハイスコアを叩き出せる。
──ここ数日はご無沙汰だったし、1コインだけ、遊んでいくか。
店のドアを開けると、常連客達がちらりとこちらを見て会釈した。小声で「Pop×2 Cubeの《M》だ……」と囁きあう奴らもいる。
どのゲームでも同じ調子で常にトップを取り続ける俺は、ここではちょっとした顔として知られていた。「強い奴がいる」というのと、「強いのに誰とも関わろうともしない変人」として。
時々他の街から出張してきて挑戦してくる奴もいたが、全て俺に叩きのめされ、しょぼくれて帰っていくのが恒例の行事になっていた。
何かのゲームのチームに入れとか、オタクな勧誘を受けたことも嫌になるほどあるが、俺が誰ともつるむ気がないらしいと伝わると、次第にそれも遠ざかった。それでいい。俺は、ゲームを純粋にプレイしたいだけなのだ。
さっきの奴らの間で飛び交っていたのは、俺の通り名。
ランキングの名前入力の画面が面倒で、《M》とだけ入れていたために、いつの間にか《M》と呼ばれるようになってしまった。これはかなり恥ずかしいが、もう変えるのもさらに面倒で放っておいている。
店のど真ん中に置かれた、まだ真新しい筐体。こないだ出たばかりのパズルゲーム──「Pop×2 Cube」。X、Y、Z方向からランダムに落ちてくるキューブを上手く配置し、同じ色を揃えて消すゲーム。
当たり前のことながら、俺はこれで世界ランキングの一位を早くも獲得していた。最新のネットワークシステムを使っているので全世界の「Pop×2 Cube」プレイヤーの成績が閲覧できるのだ。5000万点を越えるようなプレイヤーは、俺ただ一人。2位以下のランカーはまだせいぜい500万点そこそこが限界なだけに、このハイスコアはなおさら輝かしいものだった。
しかし、俺の天職がゲーマーというのも、何か違う気がするな……好きだけど。
そう思いつつ、いつものように「Pop×2 Cube」を覗きこんだ瞬間、俺は卒倒しそうになった。
「……誰だ?」
最新の世界ランキング──1位には俺の《M》が変わらず鎮座しているが、2位以下が全て見たことのない名前に占領されていた!
2位「Fred」、3位「Rob」。どちらもスコアは4500万点を少し越えている。そこから10位までが揃って4000万点以上のスコアを叩き出していた。
更にひどいことに、自動的に発信される国名も揃って「U.K」。何なんだこれは、俺ひとり知らないうちに、この国のどこかで新しい攻略法でも見つかったのか?
「あの、実はさ……」
混乱しっぱなしの俺に水を差すように、壁ぎわにいた常連の一人がおずおずと近寄ってきた。
「何だ?」
思わず声に怒気をこめて反応する。そいつは顔を少し青ざめさせながらも、思い切って次の言葉を口にした。
「そのスコア、昨日、出たんだ……この店で」
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