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Observer's name:4章 5/7
「え?」
「昨日、初めての奴がここに来てさぁ……すっげえ強くて、俺たち全員叩きのめしやがった。で、そいつが最後に、Pop×2 Cubeに小一時間貼りついてそのスコア出して、帰ってった」
馬鹿にしてるとしか思えないよ、とその常連はつぶやいた。
そのプレイヤーの「この店、つまんねぇ」発言に他の客がぶち切れ、大乱闘になりかけたのだが、あっという間に皆が精神的にも肉体的にもボコボコにされて終わったのだという。
言われてようやく気づいたが、頬に絆創膏を貼った者、腕に包帯を巻いた者など、今日の店内には怪我人がちらほらいた。
「最初はそいつも大人しくゲームやってたんだけど……なんか、誰か待ってるみたいだったな」
ゲーム。ランキング。
誰かを待っていた「Fred」……F、そうだ、そうだったのか!
「……教えろ!」
「え、何を……名前とかそういうのも、わかんないよ。ほら、あのランキング見ただろ?全部適当な名前入力してやがるし。世界ランキングの登録に必要なICカードもじゃんじゃん買って複数登録してるし、たまにいるランキング荒らしだよ、荒らし」
俺のただならぬ反応にびっくりしたのか、縮み上がる常連。
「名前じゃない、顔とか服とかなんでもいい、お前が覚えていること全部を話せ!」
俺の勢いにのけぞりながらも、そいつは更に詳しいことを喋ってくれた。
「そっか、ありがとう」
「礼はいいさ。俺はヘボなゲーマーだけど、今度また対戦してくれるかい……?《M》」
「ごめん。それは無理かもしれない」
今まで事のなりゆきを見守っていたギャラリーから、いっせいに驚きの声が上がる。
誰ともつるまないが、どんな奴との対戦も決して拒まないのが俺のスタイルだったからだ。
「俺はたぶん、もうここには来れないから」
「……ハイスコアを抜かれそうだから、逃げるのか?見損なったぜ!」
周りから飛んだ野次に、俺は笑って首を振る。
「違う、逃げるんじゃない、向き合うんだ。今度こそね」
「へぇ、直接対決ってわけか?あんた達が対戦するのなら、入場料を払ってでも見たいけどな」
「ゲームは関係ない。俺は奴と会って、話をする。それだけのことさ」
「《M》、いなくなるなよ、寂しくなるよ……みんな、あんたのプレイを見たくて来てるんだ」
店の隅から、小柄な青年が声をかけてきた。
他の皆もいっせいにうなずく。
「みんな、ありがとう。でもそれは無理だと思う。今まで──楽しかったよ」
店中の奴らと俺は握手を交わし、心の底から礼を言った。
「あの、最後に言っておくけど……」
もったいぶるなよ!と誰かが叫び、周りがどっと笑った。
色々あったが、この店は俺にとっておおむね居心地のいい場所だったな、と思った。客層も悪いものではなかった。なんだかんだ言いつつも、俺はここでさんざんゲームを楽しめたのだから。
「俺は《M》って言われてたけど、それは頭文字で……友達からは《Matt》、って呼ばれてる。一回も自己紹介しなくて、ごめん。それじゃ、またどこかで!」
沸きあがる《M・a・t・t》コールに送られて店のドアを閉めると、空は既に暗くなっていた。
──クリスマスになるまでに、会えるかな。奴に。
奇妙な高揚感に包まれて、俺はネオンが灯り始めた街を走っていった。
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