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Observer's name:4章 6/7
中心部の公園には豪華なクリスマス・ツリーがそびえ立ち、街を祝福していた。

「久しぶり」も何も挨拶もなく、俺たちはごく自然に再会した。

「やあ」

新聞紙にくるまって公園のベンチに寝転んでいた奴に、紙袋を差し出す。

「ああ……マットか」

「ああ、じゃないよ。こんなところで寝てたら今日は死ぬぞ」

「大丈夫だ、俺、意外と丈夫だからさ。生命力が強いっていろんなところで言われた」

「まあとにかく、そいつを飲め。話はそれからだ」

奴は脱皮するセミのように新聞紙を払いのけると、起き上がって紙袋の中身を物色し始めた。みるみるうちに、その顔に満面の笑みが広がる。

「ひゃっほう!もちろんこれ、ホイップクリームは……」

「大盛りだ。もう一つのカップは俺の分だから」

さっき俺が買った熱々のチョコレート・ドリンクに目を輝かせて……まったく、いつまで経っても小さな子供のような──メロ。

二人でベンチに座って、しばらく黙ってドリンクを飲む。

「……十二月五日から今まで、二十日近くもどこにいたんだ?」

「あちこち」

クリームをスプーンで口に運ぶのに一生懸命なメロは、シンプルな一言で今までのことを説明しきってみせた。

俺のネットワークを駆使してさえまったくわからなかったほどだ、本当にあちこち、予想もできないようなところを点々としていたのだろう。

「俺の住所……あの手紙、取っておいてくれたのか?」

「もちろん」

また一単語で回答すると、メロはクリームまみれの手で、ジャケットの胸ポケットからよれよれになった封筒を取り出した。

《ハウス》を出てから、俺が一度だけ送った手紙。返事は来なかった。

「……返事、すぐに出したらダメだと思ったんだ」

ようやく飲み終わったカップを傍らにおくと、少しずつメロは喋り始めた。

「マットは、自分の道を探そうとしてるんだから……俺がまだ《ハウス》の住人である限り、お前に接触するのは邪魔になるんじゃないかって」

メロの言うことは正しい。甘えていたのは、いつも俺のほうだ。

「ロジャーには、もうすぐ俺も十五歳になるんだから、自分のやり方で生きていく。って啖呵切って出てきちまった。あの晩」

約二十日をどうやって乗り切ったのか、メロの身なりにはさほど薄汚れた様子もなく、髪が多少ぼさぼさになっている程度だった。一体何をしていたのか詳しく聞くのは、野暮というものだ。

やっぱりこいつには、どんなところでも生きていけるだけの才覚と、生命力がある。どんなことをしても、どんなところでも。

「今日のあれ……メロだろ?」

「やっぱ、わかった?」

「店の客をボコボコにすることはなかったんじゃないか?」

「あれなぁ。俺も苛々しすぎてたってのもあるし、ちょっと反省してる。後で謝りに行こうか?」

「……いや、いいよ。俺が代わりに言っといたから。友達がごめん、って」

「サンキュ、マット。あのゲーム面白いなあ。今度は、生であれ対戦しようぜ」

「俺たちのレベルだったら、入場料が取れるらしいぞ。意外と儲かるかもな」

そいつは面白い、とメロは口笛を吹いた。

《ハウス》にいた時から、こいつは俺とよくビデオ・ゲームで遊んでいたものだ。ニアも誘ってみたのだが、奴は実は反射神経を使うゲームが苦手で、一度負けたらもう二度とやろうとはしなかった。逆にメロは、俺とほぼ同等の腕前。飽きっぽいので俺ほどにはプレイしていないが、対戦なら別だ。夜中まで対戦に熱中しすぎて、ロジャーにゲームを取り上げられたこともあったっけ。

点滅していた「Pop×2 Cube」のランキング画面。2位「Fred」、3位「Rob」──以下、「Olive」「Meg」「Micky」「Ed」、それに「Leo」「Linda」「Otto」。

俺が《Matt》から《M》を使っていたように、2位以下の頭文字を取って順に並べれば……。

──"From Mello"!

いかにも、メロらしい行為。

そのメッセージの中身は、最早聞くまでもない。俺は既にそれを知っている。俺は既にそれを決めている。

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