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Observer's name:5章 2/2
携帯電話のディスプレイが七色に光り出す。

0時0分ぴったり。

携帯は、メモリーに内蔵された音楽の中から「ハッピー・バースデイ」を奏で出した。

「Happy Birthday to You……」

俺は思わずハミングする。よし、ついにこの日がやってきた!

「Happy Birthday to You……Happy Birthday Dear 《Matt》……!」

かじりかけのチョコレートを振り回して、メロが合わせて歌い出す。

「Happy Birthday…… to You……」

最後は足元で、白猫がにゃあ、と鳴くおまけつきだった。

そうだ、準備をしなきゃ。さっき放り出した荷物を手早く解く。猫用トイレに、キャットフードとそれを入れる器に、水用の器に、えーとあとそれから爪とぎ用の板におもちゃ、など丸々一式。

「メロ、餌と水を入れておいてくれ」

「オッケー。どっちともかなり多めにしておこう」

「うん、それがいいな」

メロはまだ「ハッピー・バースデイ」を口ずさみながら、楽しそうに手伝ってくれた。

仕上げ。引き出しの中に札束を数個放りこみ、そこに簡単なメモを入れた。最後に、あの超高性能メカをジップロックごと放り込んで鍵をかけた──これを一個作るのに幾らかかったのかと思うと、ちょっとだけもったいない気がしないでもないが。自由になるのは、なんとも嬉しいものだった。

「メロ、終わったよ」

「おう」

メロは名残惜しそうに猫の頭を撫でる。猫も何かを察したのか、この超短期間の飼い主に──行かないで!という《標識》を出し始めた。

もう六年近く前、俺と別れる時のメロもこういう《標識》を出していたのだろうか──あのシーンを思い出すと、今でも胸が痛む。

でも、あれを経たからこそ、俺はまたメロに会えた。

「私が望むことはただ一つ。あなた達の"幸せ"です」

正夢だったのかもしれない、あの《L》の言葉。

《キラ》を追うのは俺たちのわがままにすぎないが、《L》の望みは日々叶えられているのだろう。

メロは恐らくこの血塗られた道を走り続けて《キラ》を追い詰める。俺はメロの行くところなら地獄にだって着いていく。

お互い、この選択に悔いなどない。

これから先いつ死ぬのかはわからないが、少し残念だった──天国にいるに違いない、《L》に会う機会がもうないであろうことが。今ならもうちょっと、色々な話ができそうな気がしていたから。

「おい」

少し考え込んでいる俺をせかすように、ドアを開けたメロがこちらを向いた。

そうだな、今はまず先に進まなくてはならない。急いで二人で部屋を出る。閉めたドアの向こうから、猫の鳴き声が数回響いた。ごめんな、置いていって……とつぶやいて、そこから離れる。

少なくとも丸二十四時間以内に《ハウス》の関係者が来るはずだった。

あの発信機に備わった生体認識機能が異常を感知すると、すぐ《ハウス》にプログラムが送られる。それからカウントダウンが始まり──《L》の時と同じように、一定期間の後、数字はゼロになる。ちょうど一ヶ月後、すなわち今日に。

厳密には、撃たれたのは0時きっかりではないので数時間の誤差はあるものの、もうすぐカウントが終わってしまうことに変わりはない。

二〇〇八年二月一日、この俺の誕生日中に必ず。

当然ながら《ハウス》は俺が本当に死んだのか、凄いスピードで調べにくるだろう。だがその時に俺はもうここにいない。

残されるのはあの猫に、発信機の残骸に、引き出しの中の札束。ロジャー・ラヴィー氏へのメモ。

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Dear Mr. Ruvie
俺はまだ生きています。十八歳になったので、《ハウス》の監視からは失礼します。
俺はこれからもずっと、メロの側にいます。
どうか、お元気で。

P.Sこの白い猫は《ハウス》で飼ってあげてください。
餌代などは、引き出しの中のお金から自由に使ってください。
ご面倒かと思いますが、これが俺の最後の頼みです。
よろしくお願いします。
《Matt》
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俺はマット──《観察者》。あらゆる生物が発している《標識》を「認識し」「読む」、唯一無二にして出来損ないの能力者。

《L》を継ぐことも、他の何にもなれず、《ハウス》を脱落した男。だが、とてつもなく幸せかつエキサイティングな人生を送っている男。

それでは。

《M》──《Matt》の物語は、ここでいったん終わるとしよう。

俺はメロの後を追い、長い廊下を歩き始めた。

「Observer's name」
The End.

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